(国家政策と正義分科会 小林タバサ)
「教育政策と正義」という論題のパートでは、日中両国の教育政策において大都市と地方の間の格差や家庭の経済状況と言った要因により、生じている「不正義」について扱いました。とりわけ大学入試制度をより公平なものとするための基準や政策とは何なのかについて議論しました。
中国では、全国一律の大学入試の名称である「高考」を受験し一流大学への入学を目指すという目標のために、子どもたちが過度な負担を強いられています。中国政府は「双減政策」という改革を進め、宿題と塾通いに対する規制を強化しています。しかし、北京大生たちは、高考制度そのものが改革されない限り、教育制度の問題の解決にはならないと考えていました。
他方、日本では、学校生活を理由とする子どもの自殺率の増加が憂慮されます。そのほか、日本の大学ではジェンダー·ギャップをはじめとする偏りが生じてしまっています。
日中の教育制度の問題点の比較、また日本のゆとり教育の教訓を踏まえ、当座では次のような結論になりました。
中国では高考が唯一の入学試験の形態であるため、日本のAO試験や、人物面を加味する制度、エッセイや創造性を重視するテストを導入することが良いと考えました。
また、日本の大学におけるジェンダーギャップを改善するために特定の割合を女子学生のために確保するというアファーマティブ·アクションや、クォータ制の導入の是非を巡っては、入試の公平性の担保という観点から、慎重論が北京·東大双方で優勢でした。
北京大生たちは子ども時代の遊びを犠牲にして高考に向けて勉強ばかりしていたというエピソードを口々に話してくれました。中国の入試の競争がいかに過酷であるのかを実感しました。
中国政府も課題解決に向けて今年に入り民間の塾を閉鎖するなどトップダウンの改革を進めているところですが、教育現場は混乱するなど、その弊害も指摘されました。そもそも教育サービスを民間企業が提供すべきなのか、あるいは多様性を担保するためにはやむを得ないのかという方面にも議論が広がりました。
東大生と北京大生で教育や入試の問題について話すにつれて、最初はぎこちない雰囲気の画面越しでの会話も、次第に熱を帯びて、最後には友情まで育むことができたという実感があり、忘れられない思い出になりました。