京論壇の特色の一つに東大メンバー間での深い議論が挙げられます。私は実際に北京セッションを合宿形式で参加してみると、1日目からその意義を感じました。北京側との議論終了後の夕食で、普通の談笑からいきなり価値観の議論が始まったのです。テーマは日本の大学受験制度についてだったと思います。東大の男女比や推薦入試の是非、偏差値の虚しさにまで話は広がり、気づけば日付を超えていました。入学時点で優秀なメンバーと合格に何とかくらいついた私の受験の捉え方は根っこから異なり、当初自分の中で受け入れ拒否反応が起きていました。ですが、表面的な意見の主張にとどまらず、時折各自の人生にまで踏み込む価値観の議論を通じて、実はその根底には共感できる思いがあることを知りました。たとえ共感できない場合も、相手がそのような意見を持った背景を知ることで話し手の立場に立って考えられ、納得できる点が見つかりました。
同じ言葉でも人それぞれイメージしていることが微妙に異なっていることが案外多いです。その微妙な違いこそが自分と話し手の相互理解を阻んでおり、だからこそ気が済むまで話続けることが重要なのだと思いました。メンバーは自分の意見をしっかりと持って議論しますが、相手を言い負かしたり、一つの答えを見つけたりするわけではありません。鋭い指摘の中には、相手の意味することをより明確にし理解を深めたいという思いや自分とは異なる様々なライフスタイルへの興味が感じられました。
また、先輩方を中心にメンバーの質問力に驚かされました。核心に迫るような質問を通じて、話し手自身がもやもやと言語化がうまくできていない点を解きほぐしていくのです。特に印象に残っているのは、私の進路がテーマだった時です。外交官に関心があるが国益を背負うことに向いているか分からないと話した際、世界をどのように区切って見ているのか、という質問をされました。これまで考えこともありませんでしたが、国境で分け隔てる見方にどこか違和感を感じていることを質問に答える中で初めて気づきました。他者理解だけでなく、自己理解が深まるのも京論壇の良さでしょう。
そして、これらはセッションや普段の勉強会にとどまりません。例えば1年生でご飯に行った際にはハンバーグを目の前に世界平和の実現ついて議論しましたし、京論壇OBOGにお話を伺った際には初対面にもかかわらずお互いの人生を語りました。京論壇では、濃密な内容の話をいつでも安心してできるのです。このようなコミュニティは東大内でも特殊な部類に入るのではないかと思っています。自分のあり方や将来のビジョン、社会問題について少し考えてみたことなど、他人に共有するのが憚られるような深い話をできるメンバーは、私にとって駆け込み相談所のような存在であり、いつも様々な場面で助けてもらっています。またそれぞれのメンバーは、十人十色の人生、価値観があることを実感させ、毎回新しい世界を見せてくれるので、彼らと話すととてもワクワクします。京論壇に入って、最高のメンバーに出会えて本当に幸せです。京論壇の性質上、来年度はメンバーが大きく入れ替わるのですでにその寂しさを感じていますが、まずは今度残された活動に熱を注いでいきたいです。
現代社会における消費文化分科会 高澤美優