原健太郎さんインタビュー
岩元勇都
- まず今までの経歴、現在、将来にビジョンについて簡単に説明いただき、それを踏まえて質問を重ねていくという形式でインタビューをさせていただきました。
- ご経歴に関して
- 理科一類に入学された原さんは工学部航空宇宙工学科を卒業され、そのまま航空宇宙工学専攻で修士を終え、その後ミシガン大学でPhDを取得、プリンストンプラズマ物理研究所でのポスドク、3年間のテキサスA &M大学でのassistant professorを経て現在はスタンフォード大学航空宇宙工学科にてassistant professorを務めて3年目だそうです。
- 学部時代は航空宇宙工学科での勉強に打ち込む傍ら、かなりラクロス部に注力され、修士時代にはヘッドコーチを務めていらしたそうです。また、京論壇には修士一年の時に参加され、修士2年次には後押しもあり代表になるも、ラクロスのコーチ、修士での自身の研究、留学の準備に追われ、ある程度の準備を終えた段階で代表を辞退されたと明かされました。
- このご経歴に関して、京論壇メンバーにもよく見られがちな大学生活で詰め込みすぎてしまうという状態を、今振り返ってどう捉えられているかうかがいました。
- 原さんは端的に、自分を信じるしかない、と述べられた後で大人になると失敗する機会が減っていく、しかし学生時代の失敗は実は何にも響かない、いろんなことに挑戦することはキャリア形成だけでなく人格形成にも響いてくる、もしダメなら、ごめんなさいまた頑張ります、というスタンスで自分を信じて頑張るしかないと付け加えられました。
- また、信頼できる友人等に例えば京論壇の中で相談していくことが大事だとおっしゃっていて、他の話題でも何度か登場した原さんの人との関わり方の一片を少しかいつまんでご紹介させていただくと以下のようになるのかなと考えます。
- 人の上に立つような年齢になると孤独が増えてくる。そうすると自分で自分を評価しなくてはならなくなるが、その際に自分の現状を伝えてクリティカルに評価してくれるような人が必要。東大に入ってよかったこととして信頼できる賢い人と出会えたことをあげられており、そんな信頼して話せる人に年齢は関係なく、原さん自身も八つ上の先輩と厚く交流があったと話してくださいました。(学年を超えて交流のある京論壇はうってつけですね!)
- また将来のビジョンに関しても、「周りにいるすごい人たちをロールモデルに設定して、この分野はこの人、この分野はこの人と各分野で目指す人に追いつけ追い越せで頑張っていくうちに、ビジョンを立てるというよりは自分がやるべきことが見えてくる。その中で失敗したらまた先輩に話を聞きつつしていくのが良い」と話されていました。ちなみに、「ビジョンがないというような人は、そもそも人に(自分が関心のある分野、将来についてのアドバイスなどなど)話を聞いていない人が多いのではないか?とりあえず聞いてみることを始めてみたらどうか」というようなこともおっしゃっていました。
- また、修士までを日本で過ごし、博士から渡米された原さんに、もっと早くからアメリカに行くべきだったと思うか、それとも適切なタイミングだったと考えるか伺いました。
- アメリカでは、アカデミアに入るとフルタイムで研究せざるを得ないが、それよりは日本でそれなりに勉強しつつ、課外活動に力を入れられたのは研究や学業という観点ではあまり意味がなかったかもしれないが、人格形成という意味では、人の上に立つ上ようになるような年齢になってきた今振り返って、リーダーシップであったり組織論であったりを考える時に役に立つ。このような経験は修士課程からアカデミアに入っていたらできなかったかな、将来的に10年20年で考えると大きな意味があると考える、と返答くださいました。
- 実際に原さんは自身の研究室においてassistance professorという立場から中東からアジアヨーロッパまで日本にいたときには想像もできないくらい育ちにも文化にもダイバーシティのある複数の学生を抱え、その中でvalueを組織の中で共有することがいかに大事で本当にみんながモチベーションを持ってやれるかというような環境を作ることが必要になり、それはラクロスでの百人規模の団体を動かす際にも京論壇での活動でも、失敗できる環境での仮説と実行の繰り返しで学んだことが活きていると仰っていました。
- ご経歴に絡めて質問をしていくうちに「賢い」「賢い人」というキーワードが何度か登場しました。興味深い内容でしたのでここで整理して紹介させていただきます。
- 賢いとはどういうことなのかを若い頃からよく考えていた。勉強ができるだけでなく人間力が大事になってくるだろう。そこには好奇心を持つこと(必ずしも好きである必要はない)、忍耐力があること(コミット力、やると決めたら投げ出さないこと)、社交性や社会性(これはパーティーに行って楽しめることというような意味ではなく、この人と話したいと思えば自分からいくしくじけない、というような人間関係の築き方として)がある。もう一つくらいあった気がするけど、思い出せないってことは重要じゃないんでしょう笑
- 本を読んだりインプットしたり自分と向き合って積み上げる勉強に集中するような収束させる時期と、色々な人に会ったり幅広く活動する拡散の時期は人それぞれあり、1,2年で収束して3,4年で拡散させるような人もいればその逆も、色々な形があっていいが、そもそも収束と拡散を楽しめる人が成功するのではないか?いわゆる賢い(成績がいい)人はそれを完璧にデザインしようとしてしまう。それは完璧な配偶者・パートナーを見つけるようなもので、常に最良の状態を求め続けるのではなくて限られた時間と限られたチャンスの中でアクセプタブルな答えに出会えればそれでいい。最悪だけを避ける。
- 研究の分野だと、ただ賢くて頭が切れる人よりも、スタートが遅かったりしても自分のテーマに熱を持っている人の方が最終的に論文を書けたりする。うさぎと亀で言ったら熱のある亀が強い場合がある。そうなってくると最終的には熱のあるうさぎが一番強いのではないか。今後世界中の人たちと戦うとするならば、寝てる時も考えてしまうほど熱のあるものを見つけるべきで、そういった熱を持った優秀なうさぎたちが最終的なライバルになってくる。
- 原さんの現在について
- 現在はスタンフォード大学の航空宇宙工学科でassistant professorを務められており、宇宙推進、特に宇宙で使うロケットで使われる電気推進という従来の燃料を燃焼させる化学推進よりも効率の良いメカニズムを開発しておられるそうで、電気的なガスであるプラズマ(太陽やオーロラもその一種)について理論、数値解析、他にも数値流体力学(航空機のデザインに当たっての空気の流れ等)、それを踏まえた航空機デザインのソフトウェア開発などに取り組まれているそうです。航空宇宙工学の道に進まれた経緯の一つとして、父親の影響で子供の頃からSF等に興味を持っていたことと、人類の歴史の中で輸送手段の発展でパラダイムシフトが起こっていると考えると、更なる発展により今の世界の問題が問題でなくなるだろうという航空宇宙工学に携わることへのプライドを持っていることを明かしてくださいました。
- また興味本位で原さんのスケジュールについてお伺いしたところ、快く答えてくださり、平日は研究食事研究食事研究、、、その中でお子さんと過ごされたり息抜きをしたりということでした。計画を立ててかっちりするタイプというよりは、今は波に乗れるから120%でやるし、今日は50%で流したり、というのを締め切り等を事前に把握した上で、その中でうまくモチベーションを管理しているとのことです。学生と話すことが好きだから、今は学生一人一人と対話することをプライオリティに置いている。また研究も多種に及び、学生の指導もある、アメリカの大学では研究資金を獲得することも重要になる。このようなマルチタスキングはどの職業でも必要になり、学生の頃のさまざまな活動に力を入れていたことが今生きていると振り返っていらっしゃいました。
- 将来のビジョンについて
- アメリカのアカデミアでtenureを取ること。
- そのために研究を続け、自身の研究室からPhD を輩出すること。
- より宇宙開発が進んだときに推進のメカニズムは必須になる。そこでご自身が開発したプラズマの数理解析モデルが実際の人工衛星に使われること。
- 最後に
- インタビュー終盤のちょっとした会話の中でかつて博士課程とポスドク期間を過ごされたテキサス、オースティンの “Keep Austin Weird” という言葉を紹介され、本業は他にありつつ、それぞれの学部に所属してやりたいことをしながら京論壇に集まる我々に、京論壇も、興味や専門が異なった変な奴が変でいられる集団であったらいいね、とおっしゃっていました。勇気づけられると同時に大先輩からのこういった言葉にはなんだか嬉しくなりますね。この言葉を京論壇メンバーへ贈る言葉として受け取り、ここで紹介することで記事を締めさせていただこうかと思います。
- 実は自分(岩元)は授業の関係で途中退出せざるを得なかったので、本当はもっと突っ込んで聞いてみたいことがたくさんあります。(どんな質問にも率直に丁寧に返してくださったが故に、もっと聞きたいと思えているのかもしれません。)原さんはまた機会があればお話ししましょうと言ってくださり、本当に本当にまたお話ししたいです。
- 今回はインタビューを受けてくださりありがとうございました。
終