代表挨拶
「京論壇ってどんな団体なんだろう、なんだか得体が知れないな」
というのが、参加する前に抱いた京論壇に対する印象でした。当時僕は、大学に意気揚々と入学したはいいものの、サークルや学生団体の数と情報量の多さに圧倒されていました。ディベート・起業や政策立案といった中身のわかりやすい団体もたくさんある中で、京論壇は「北京大生と本気の議論をします!」ということしか書いていなくて、頭の中にクエスチョンマークがたくさん湧いてきました。
どうやら京論壇は、議論をする団体らしいのです。ひたすら議論をする。どのくらいかというと、夏と冬に一週間ずつ、毎日7時間以上かけて話すみたいなのです。そこまで聞いて僕は思いました。「なんで北京大学の学生と話すの?」「だいたい何についてそんな長時間話すの?」「結局それってどんな意味があるの?」
そのような疑問を抱えつつも、もはや議論という言葉にしかアイデンティティがないように思えるこの団体に、俄然興味が湧いてきてしまいました。そこで応募をしたところ、なんと面接に通り、気がついたら1年間活動していました。そしてその中で気づいたことも多々ありました。
まず北京大生と議論する意義は、価値観のぶつかり合いにあります。前提としている制度や教育内容が著しく異なる人との対話では、お互いの価値観の相違が浮き彫りになります。同じ概念について話していても、一つ一つの言葉に対する考え方が全く違ったり、同じ事象に対してまったく違う問題意識を各々持っていたりしました。その違いをそのまま受け入れるのではなく理由を考えると、根底には例えば国家の枠組みによる影響があったりします。
話す内容ですが、これは参加者全員で作り上げていくものです。夏と冬の一週間の議論の前は準備期間で、トピックについてとことん突き詰めます。議長があらかじめ設定した枠組みのもと、どのような議題をみんなで話したいか、どのような議題が盛り上がるかじっくり検討します。それでも、本番はどうなるか分からないもので、そんなに話すことあるの?という話題に長い時間が割かれることも多々ありました。それもまた醍醐味です。
京論壇の意義は、やはり利害関係のない学生という立場だからこそ出せる本音の議論にあります。所詮学生どうしの話、繰り広げられるのは机上の空論だ、現実的でないという指摘もあります。社会経験もない、学者でもない、フィールドワークや調査をしたわけでもない、学生だけで話しても理想主義的な結論だったり、過度に単純化された結論に陥ってしまうという批判もあります。これを防ぐために、京論壇では「どうしてあなたはそう思うの?」という問いを大事にしています。自分がなぜある意見を持つようになったのか、とことん掘り下げていきます。これこそが、本音の議論です。各々の意見を鵜呑みにしたり頭ごなしに否定したりせずに、なぜそう思うようになったかみんなで考えるのです。この過程では、自分自身の潜在的な偏見や先入観に気づくもしばしばです。このように、相手だけでなく自分の価値観とも否応なくに向き合うことで得られるものははかり知れません。
ここまでは京論壇の存在意義と魅力について、議論をする側面から話してきました。一方で、京論壇というコミュニティ自体に魅力を覚える人も(僕含め)数多くいます。
2020年に議長を務めた高さんは、大好きな火鍋をモチーフに京論壇を説明しています。
高さんは、「東大生」や「中国人」といったラベリングをスープに、一人一人の個性を食材にたとえています。
「食材を火鍋に入れたら全部そのスープの味に付けられ、一見全ての食材が同じ単調な味になる。実はスープは同じだとしても、異なる食材は同じ味ではなく独自の味を持つ多様性がある。」
「火鍋のスープのような同じ味の所にいても、独自の個性を持って異なる一人一人は存在している。」
ここで高さんは、同じ属性を持った人それぞれにもその人自身の個性があるということを明快に示しています。このような各個人の考え方を、日本人や中国人、東大生や北京大生といった属性にとらわれず、大事にしているのが京論壇です。
最後に今年度の抱負です。今年は、京論壇を開かれたコミュニティに変えたいと思っています。京論壇には数多の課題がありますが、とりわけ、京論壇の閉鎖性、社会への発信力のなさは去年を通じて痛感したものです。エリート主義だと批判されたり、秘密結社と評されたりした一因にもなっていると思います。内輪で話すだけではなく団体外の学生にも積極的に働きかけることで、社会との接点を増やしたいと思っております。実現のためには、先生方はじめ協賛のみなさまのご協力が不可欠です。今後ともご支援ご協力のほどよろしくお願いいたします。
少しでも興味を持ってくださった方、これを読んでも要領を得なかった方は、ぜひ説明会などに足を運んでいただけると嬉しいです。議論という底なし沼に、あなたも足を踏み入れてみませんか。きっと刺激的な仲間が待っていると思います。
京論壇2022代表
丸山晴樹