香港セッションで政府・市場・個人分科会は主に3つのテーマについて議論した。
1つ目はエリートの持つ責任についてである。分科会全体として「エリートは社会全体の改善に貢献する責任がある」という点でおおむね一致しており、その理由としては、エリートの成功の裏側には社会から多くの恩恵を受けてきたという事実があるためそれを還元しなければいけないこと、また、影響力を持つことのできる人は限られているためその立場を有意義に活用しなければならないことなどが挙げられた。午後の議論では各々の将来設計をシェアし、質問しあうことで、お互いが人生の中で何を重んじているかについて話し合った。東大側、PKU側ともに政治や経済、学問の第一線で働くことを目指している人が多い印象だったが、その背後には安定を求める気持ちや親の意見に影響される気持ちなどさまざまな思いがあり、かえって大学生の等身大の姿が感じられた。
2つ目はジェンダーについてである。香港のLGBTQアクティビストからレクチャーを受けたあとだったため、感想を話し合うところから議論を始めたのだが、「香港のこういうところが自国とは違う、ここは同じだ」などと話し合うことを通して、日本、中国、香港ともに同性婚が非合法であるにも関わらずその背景は大きく異なることが分かった。午後の議論では、公共の場所にLGBTQフレンドリーな空間を作ることについて話し合った。ジェンダーフリーのトイレやトランスジェンダーのスポーツ選手などの例について話し合ったが、物理的・経済的な制約があることやマイノリティのために税金を投入することへの懸念などが挙げられた。また、ジェンダーレス化の過度な推進は伝統的なジェンダー観に居心地良さを感じる人々を閉め出すことになるのではないかという意見もあった。私はジェンダーフリーの空間はどんどん増やされていくべきだと思っていたので、そうした視点があると知れたことは学びになった。これは様々なバックグラウンドの人々が集まって議論したからこそ得られた学びだと思う。
3つ目は経済についてで、主に日本のバブル経済と中国における不動産価格の高騰との比較に時間を割いた。東大側に経済学部の四年生、PKU側にポリティカルサイエンス専攻がいたこともありかなり高レベルな議論が繰り広げられたように思う。適宜まとめや解説の時間を挟みつつ議論を行った。現在一年生の私にとっては大きな刺激となった。
全体を通して、夏よりも深みのある議論ができたと感じる。夏は日中の現状について教え合う部分が大きかったように感じたが、今回は「○○についてあなたはどう思うか?どんな経験をしたか?」とよりパーソナルな部分にも踏み込めた。教科書やニュースを読むのではなく生身の人間と話し合う意義はそこにあると個人的には思っている。
個人分科会・鵜飼