2月16日、政府・市場・個人分科会は香港の中心部を離れ、ランタオ島西部に位置する漁村である大澳(タイオー)を訪れてフィールドワークを行った。現地で自然や文化に触れるアクティビティやワークショップを行っている非営利団体の大嶼文化工作室(Lantau Culture Workshop)の方々に村をガイドしていただいた。村の成り立ちや歴史、現代における産業やコミュニティを取り巻く環境の変化をお話ししていただいた。その後は大嶼文化工作室のオフィスに伺った。
大澳は歴史ある漁村であり、街の大部分で水路に沿って棚屋が広がる光景が特徴的で、観光地としても知られている。しかし、村の基幹産業である漁業は衰退が顕著であり、これについて大嶼文化工作室の方々に伺ったところ、魚介類の乱獲や過度の観光開発、対岸の中国の工業開発などを主たる原因として、海洋の生態系が破壊されているという原因を指摘されていた。さらに、水路沿いに広がる水上集落と陸上生活者の間で歴史的に形成されてきた独特なコミュニティについてもお話を伺った。元々は水上で生活する人々と陸上で生活する人々で全く異なる2つのコミュニティが、いかに共生をなしえてきたか、また逆にいかなる点で未だに溝が残っているかというお話が興味深かった。
村を見学した後は大嶼文化工作室のオフィスに伺い、コミュニティで行われている持続可能な地域社会を目指した取り組みについてのお話をお伺いした。自然を保護しながらも生活の質を高めようとする取り組み、副作用を伴うような観光「開発」ではないエコツーリズムの試みなど、意欲的な取り組みを多く行われていたのが印象的だった。
フィールドワーク中においても、分科会メンバーでの議論は盛り上がっていた。その中でも特にメンバーの関心を惹いた話題が信仰だった。大澳は漁業と関連した媽祖などの海の神だけでなく、陸上での商売の神として関帝などが祀られるほか、一神教的なニュアンスを持つ救世主信仰のようなものや日本の地蔵信仰に似たものなど、多彩な民間信仰が存在する地域だった。これについて話す中で、メンバーの間では日中の宗教観の違いや、それにとどまらない個人の宗教観についての議論にも発展した。信仰は究極的には個人の問題ではあるが、儀礼や生活慣習としてそれが表出されるにあたっては社会との関わりを免れない。信仰というレンズを通して個人の価値観がいかなる違いや共通性を持つか、そしてそれがいかに社会をはじめとした外的要因に影響を受けているのかを考えるような、興味深い議論が行われた。
(個人分科会・林)