問い
政治経済体制とはどのようなものか
両国のコロナ政策はどのようなものか
起業と経営への意識はどのように違うのか
問題意識
政府や市場のあり方は、個人の発展のための基本的な枠組みやプラットフォームを構成し、経済活動を通して個人に大きな影響を与える。
本分科会では、この前提を踏まえ、日本と中国における政府と市場の関係、およびそこから派生する経済システムについて議論する。さらに、これらのメカニズムの下での企業・個人の経済活動、個人の生活に焦点を当てる。(文責:森田結菜)
成果
① 政治制度と市場
現在、両国で実際に起こっている社会問題や両大学の個々の学生が現在持っている問題意識に即する形で、政治制度や市場、その両者の関わりのあり方における共通点と相違点を明らかにするとともに、その背景にある価値観の共通点や相違点を探った。政治制度についてはまず”Democracy”という抽象的な概念を起点として両大学の学生の持つ観念について議論を行った上で、若者の政治参加の低下や政治腐敗などの具体的な問題についても考察した。市場については近年の大きな事象として日本の不況と中国の市場経済の導入を取り上げ、市場の政治との関わりや社会に与える影響という側面を中心に議論を行った。さらに、両大学の学生間で共通していた「若者の将来への悲観」という観点などではこうした政治的経済的要因を中心に、学生一人一人の将来設計に関する考え方を織り交ぜる形でその背景を検討した。(文責:林陶然)
② 日中のコロナ政策
コロナ渦における政府の市場、個人への干渉について議論した。それぞれの国で実施されている政策を述べつつ、各メンバーの体験を交えて話し合った。日中両国において政府の影響力が増しており、特に感染対策の最前線である地方自治体の権限が拡大していることが分かった。日中の差異としては感染拡大防止策と経済政策のバランスが挙げられる。中国がゼロコロナ政策を掲げ経済成長よりも感染拡大防止を優先させているのに対し、日本は感染者数が増加しているにも関わらず厳しい規制を課さずwithコロナの方針に転向している。東大側、北京大側ともに、命を守り人々の安全を保証することが最優先だが政府の過剰な統制につながってはいけないという立場が主流なようだった。(文責:鵜飼麻矢)
日中のコロナ対策の概要をお互い共有した後、そういった違いがどのような背景により生まれているのか、ということを主に議論し、その理由などを政治的、経済的、文化的、歴史的な背景を議論することよって深ぼった。ここでは、トレードオフが重要な論点となっており、「コロナ対策と経済発展のトレードオフ」、「政府の権力と人々の自由のトレードオフ」、「(データを用いた)効率性とプライバシーのトレードオフ」などを議論した。中国では、中央政治と地方政治との関係性や、儒教やCCPの影響力などについて、日本では他人の眼や地政学的要因などがこのトレードオフに影響する要因として議論が進んだ。(文責:堀拓人)
③ 経済活動
日中両国における起業とアントレプレナーシップ教育について議論した。中国では近年、巨大なベンチャー企業が複数誕生しているが、学生の意識としては日本と同様に起業に消極的であった。日中の若者は将来への不安から安定を志向しリスクを回避する傾向にあり、失敗の確率が高い起業を選択する者は少ないようだ。アントレ教育についても、経済社会や人生設計を具体的に考えるために多くの学生が受けるべきだという意見は少なく、あくまで起業家志望の学生のみが選択的に受けるものだという認識が主流だった。中国の経済成長が政府による「選択と集中」によるものであったこととの関連も予想されるが、総じて、上昇志向で積極的という中国人像が覆される形だったといえる。(文責:中市貴大)
発表するときに日本と中国では雇用の傾向が逆であることに気づいた。日本では官僚離れが続き、大手企業が人気になる中、中国では公務員を志すものが非常に多く、民間企業がかえって、それほど人気でなくなっているのだ。この違いについて聞いたところ、メンバーの意見は実にいろいろであった。東大側は大手に偏っているわけではなく、北京側も公務員を志すものはそこまで多くなかった。むしろ、地位や金銭面よりも、自由、志といった価値観の言及が多くあった。今回は時間制限のため、個人それぞれの感想にとどまり、その具体的な理由の討論や究明はできなかった。しかし、国の体制は違うけれども、海を隔てた彼方の人が同じことを考えていることを知るだけでも、これからの議論を進めていく中で大事なことだと感じた。(文責:尹人)
今後の展望
今回のセッションでの議論を通じて、以下の議題を2月のセッションで扱うこととなった。
- 日本のバブル景気とそれ以降の不動産政策,中国の不動産価格について
- ジェンダーとは何か?-思想の歴史-
- 個人主義 individualismと集団主義 collectivism
これらをもとに、今後の勉強会では関連する本や記事を扱っていきたい。(文責:森田結菜)