問い
構造的な不正義・差別はどのように形成/再生産されるのか、如何にして非特権的で周縁化された人々が抵抗を行うのか、最終的に共生や和解は存在するのか、するとすれば如何なる形か。
問題意識
個人としての違いは微々たるものだが、特定集団に属する人々は差別を受け、周縁化され、排除される。そこには人間感情以上の構造的な不正義が潜んでいる。特定の人々が排除されない社会を作るには何が必要なのだろうか。「特権的」立場にある我々ができることは何なのか。京論壇17期の皆と共に考えていきたい。(文責:杉本遥)
成果
①外国人
外国人への差別はどうして、どのように起こるのかという原因・形態について、在日中国人差別を特に取り上げて考察・議論した。歴史的背景の影響を受け形成された中国人に対する優越感や、日本人に強く見られる集団意識のほか、議論では、政治的プロパガンダ・メディア・宗教・好奇心・国別の特定の偏見などが外国人差別の原因として挙げられた。また、意図的な差別に加えて、無意識的に行われる差別についてもとりあげ、教育・メディアの質の向上が現状の改善策として上がった。さらに、議論の中では、少数者が多数者の支援を慈悲の押し付けとして拒絶する事例を引いて、多数者と少数者の望ましい関わり方を話し合ったが、有効な策は得られず、この先も考察を続けていきたい。(文責:広林恵実)
②障害者
不可逆的かつ永続的な生活困難に対して与えられるのが「障害」というカテゴリーだが、一体何が障害を永続的なものたらしめているのか。このトピックでは、健常者からの差別がどのような経路で及ぼされるのか、差別の対象としての障害の特異性に留意しつつ議論した。しばしば無自覚なものでありうるという障害者差別の特性を確認した上で大きな議題となったのは、女性の中絶の権利と障害児の出生権との関係である。また議論の中では、何が人間の価値であるのかという根源的な問いも提起された。(文責:江野本諭吉)
③地方・貧困
地元愛や郷土愛といった言葉に表されるように、私たちはある地域に対して特別な感情を抱くことがある。このような感情は地域の特性と結びつき、個人のアイデンティティーともなりうるものだ。だが、特定の地域がネガティブなイメージと結び付けられるとき、地域差別が生じてしまう。このパートでは、日中両国の地域差別の事例を取り上げながら、各事例の特徴や解決すべき課題を話し合った。議論では地域差別の感情を煽るマスメディアの危険性や差別感情の原因となる地域格差の問題が取り上げられた。また、個人のもつ偏見やバイアスがより構造的な差別を引き起こす可能性についても議論した。(文責:石井想)
④感染症
人間が感染症に対して恐れを抱くのは自然である。しかし、感染症への恐れはときに差別を生み出す。COVID-19の流行下でも両国で様々な差別が発生した。京論壇17期の学生はCOVID-19のパンデミックを体験した世代である。自分たちがパンデミック下で体験したことや感じてきたことをもとに互いの考えを探り合い、ともに感染症と差別の関係を議論した。日中両国では、感染者に対する誹謗中傷や感染者の解雇、流行地域出身者への偏見がもたらす差別など様々な事象がみられる。議論では、日中の社会的な意識や制度の違い、集団意識の差を明らかにしながら、こうした差別が発生する原因を分析した。(文責:西山知樹)
2月のセッションへ向けた展望:
セッションを経て、定義の不明瞭性、マジョリティ/マイノリティの関わり方など多くの未解決問題が浮き彫りとなった。単に主語が大きく机上の空論である一般論に終始することなく、具体的事象や個々人の経験をベースにした議論の構築を引き続き意識していく。勉強会では、前述の意識を保ちつつ、全員が議論を引っ張れるようにしたい。(文責:杉本遥)